
東京西部の青梅市沢井にある小澤酒造は、春は新緑、秋には紅葉がひときわ映える多摩川の清流沿いに位置します。
300年以上の歴史を誇る小澤家は、古くからこの地で林業をはじめ様々な商いをしており、江戸中期の元禄15年(1702年)には、すでに酒造りをしていた記録が残っています。元禄15年とは「忠臣蔵」として知られる元禄赤穂事件が起こった年です。
銘酒澤乃井は、沢井という地名にちなんで命名されました。
沢井という地名は、豊かな水が沢となって流れる場所を表しており、古くからこの地が名水郷として知られていたことを示しています。
澤乃井のロゴマークはサワガニ。サワガニは、日本固有種で、水のきれいな渓流や沢などに生息しており、水質の良さを表す指標生物のひとつに選定されています。
二種類の仕込み水

小澤酒造のお酒は、伝統的なすっきりとした辛口から華やかで柔らかな口当たりの酒まで、多種多彩な魅力に富みます。
伝統的な味からモダンな味までを作り出せる理由は、二種類の仕込み水にあります。
小澤酒造では、仕込み水に二種類の井戸の水を用いています。
中硬水の「蔵の井戸」と軟水の「山の井戸」です。
蔵の井戸は、秩父古生層の岩盤を掘り進めた洞窟の奥にあり、ツアーのなかで見学することが可能です。
山の井戸は、多摩川を挟んだ蔵の対岸の山奥にある井戸です。
中硬水からは、生酛(きもと)造りなど江戸時代から続く伝統的な酒が造られ、軟水では華やかで柔らかな口当たりの酒が造られています。
環境への取り組み

日本酒の命ともいえる水。その水を育むのは森林です。
小澤酒造はかつて林業を営んでいたため、近隣の山を多数保有しています。
現在は林業を営んでいませんが、山林の保全や管理を行っています。
小澤酒造の22代当主であり現会長の小澤順一郎さんは、大学卒業後、材木問屋に就職し、山や木材のことを学んだと言います。

小澤酒造では、木桶を使用した仕込みも行っています。
木桶は、裏山にあった樹齢300年と言われる杉の木から作られています。
その杉の木が倒れてしまい、蔵と同じ時間を歩んだ杉を、なんとか再利用できないかと考え、その杉で木桶を作ることにしたのです。
しかし、ステンレスタンクが主流の今、木桶職人はほとんどいません。そのため、大阪の職人に木桶を依頼したと言います。
酒造りの工程を機械化する部分があっても酒造りの精神は変わりません。
天は与え、地は恵み、人はそれを受けて育てる。小澤酒造では、この順序は変わらないのです。