
奥多摩は、清らかな水と豊かな自然が育む食材の宝庫です。
江戸時代には食文化が発展し、江戸四大名物食とよばれる「蕎麦切り」、「天ぷら」、「鰻」、「握り寿司」が誕生しました。
江戸時代中期以降の江戸は、人口100万人を超え、増加する町の人々の食生活を支えるため、食材や酒、調味料などあらゆるものが全国から江戸に運ばれるようになりました。
奥多摩を含む東京都の西側に位置する30市町村からなる地域は多摩地区と呼ばれ、遅くとも江戸時代には酒造りが始まりました。現在も9社の蔵元が酒造りを行っています。
奥多摩は、山が急峻で水田を作ることが難しい土地です。
湧水に育まれるわさびは、握り寿司や刺身、蕎麦に欠かすことのできない香辛野菜であり、山間地における貴重な産業でした。
奥多摩には、わさび以外にも奥多摩やまめや原種に近い治助イモなどの特産品があります。
日本酒

日本酒とは、米と米麹、水を主な原料とし、発酵させて造られた酒のうち、 原料の米に国内産米のみを使い、かつ、日本国内で醸造されたものをいいます。
日本では古くから神に捧げるものとして酒を醸してきました。
かつては、麹菌という微生物の力によって造られる日本酒は、人知を超えた神の力によるものと信じられていました。
科学技術が進んだ現代においても、日本酒造りでは、神仏への祈りと感謝は欠かせないものです。

日本には酒造りの神様が数多く祀られています。
日本最古の神社である奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)では、毎年秋に、醸造安全祈願祭が行われ、全国の酒造家や杜氏が参列し、新酒の醸造安全を祈ります。
酒蔵の軒先には、杉の葉を束ねて球状に作った「杉玉」がつるされています。
大神神社では、毎年11月14日に「良いお酒ができるように」との願いを込めて杉玉を飾っていました。
その習慣が、全国の酒蔵や酒屋に広がり、杉玉は、新酒が出来たことを周りに知らせると同時に、杉玉の色の変化によって新酒の熟成の具合を伝えるものとなりました。

日本酒の約8割は水でできています。
この水のことを「仕込み水」と呼び、日本酒の味わいを大きく左右する重要な要素です。酒蔵では、その地ならではの水を使って酒造りを行っています。
日本酒は並行複発酵と呼ばれる世界でも珍しい製法で造られています。日本酒は発酵後も多くの製造工程を経て、約60~120日間かけて造られます。製造工程を一部変えると、呼び名や味わいが変わるのも日本酒の面白さです。

東京の酒造りは230年以上の歴史があり、東京ならではの酒造り文化があります。
江戸時代中期になると江戸の人口が増加し、飲食の需要も急増しました。
11代将軍徳川家斉の時代に、寛政の改革の推進役として知られる松平定信は、「江戸の人々が関西で造られた酒を大量に飲むため、関西にお金が大量に流れてしまう」と嘆き、江戸に入る酒の改めを厳しくしました。
そして、幕府は東京の有力酒造家11軒を集めて、幕府が所有する米を貸し与え、3万樽の酒の製造を命じました。
こうして誕生した優良な酒は、江戸の民衆に販売され、この頃から江戸の酒造業が一段と発展しました。
2024年12月5日に、日本の「伝統的酒造り」が、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。酒造りは単なる飲料の生産ではなく、地域の自然環境、職人の技、そしてコミュニティのつながりが一体となった文化そのものです。
無形文化遺産登録を機に、東京の日本酒がさらに注目されることでしょう。
奥多摩やまめ

奥多摩やまめ(画像提供:奥江戸水産)
奥多摩やまめは、奥多摩さかな養殖センターで開発され、奥多摩地域で養殖されている大型のヤマメです。刺身やムニエルなど様々な料理で楽しむことができます。
ヤマメは、姿・形の美しさや味の良さから「渓流の女王」と呼ばれて人気の高い魚です。
ヤマメとサクラマスは同じ種類の魚で、生まれた川で一生を過ごす個体を「ヤマメ」といい、川から海に出て大きく成長し、やがて再び生まれ故郷の川に戻ってくる個体を「サクラマス」といいます。
通常のヤマメは、2年で産卵して死ぬため、体長は大きくても約30cmです。
それに対して、奥多摩やまめは、受精卵をぬるま湯につけることで、2年以上生きて通常のヤマメよりも大きく成長します。
小澤酒造
酒蔵
東京西部の青梅市沢井にある小澤酒造は、春は新緑、秋には紅葉がひときわ映える多摩川の清流沿いに位置します。
300年以上の歴史を誇る小澤家は、古くからこの地で林業をはじめ様々な商いをしており、江戸中期の元禄15年(1702年)には、すでに酒造りをしていた記録が残っています。元禄15年とは「忠臣蔵」として知られる元禄赤穂事件が起こった年です。
銘酒澤乃井は、沢井という地名にちなんで命名されました。
沢井という地名は、豊かな水が沢となって流れる場所を表しており、古くからこの地が名水郷として知られていたことを示しています。
澤乃井のロゴマークはサワガニ。サワガニは、日本固有種で、水のきれいな渓流や沢などに生息しており、水質の良さを表す指標生物のひとつに選定されています。
田村酒造場
酒蔵
福生駅から奥多摩街道を玉川上水に沿って進むと、威風堂々たる漆喰の白壁の奥に、八角形の煙突のある重厚な土蔵が見えてきます。
酒蔵や水車小屋、石垣などが国の登録有形文化財に指定されている田村酒造場です。
敷地内には、手入れの行き届いた広大な屋敷や庭、その中にめぐらされた田村分水があり、一歩足を踏み入れると、凛とした空気に包まれます。